はじめに
これまでの連載では、介護費用の全体像から始まり、保険の活用、費用節約術、介護の選択肢、そして事前の準備に至るまで、介護にまつわる「お金」と「備え」について幅広く解説してきました。最終回となる本記事では、特に精神的・経済的負担が大きくなりがちな「認知症介護」に焦点を当てます。
認知症の介護は、予測不能な症状や長期化するケアにより、家族に大きな影響を及ぼします。本記事では、認知症介護にかかる費用、利用できる施設、そして家族の負担を軽減するための具体的な知識と支援策について、これまでの記事の内容を総括しつつ、詳しく解説します。
認知症介護にかかる費用
認知症の介護費用は、在宅介護か施設介護か、また要介護度によって大きく異なります。
•在宅介護の場合: 月々の平均費用は約4.8万円とされています[1]。これには、介護保険サービスの自己負担分、医療費、おむつ代などの日用品費が含まれます。しかし、症状の進行に伴い、訪問介護の頻度が増えたり、デイサービスの利用が必要になったりすると、費用はさらに増加します。
•施設介護の場合: 月々の平均費用は約12.2万円です[1]。施設の種類によって費用は大きく異なり、公的な特別養護老人ホームは比較的安価ですが、民間の有料老人ホームやグループホームは高額になる傾向があります。入居一時金として数百万円が必要な場合もあります[2]。
これらに加え、住宅改修や介護ベッドの購入などの初期費用として、平均で約74万円がかかるというデータもあります[3]。
認知症の方が入居できる施設
認知症の症状が進行し、在宅での介護が困難になった場合、施設への入居が選択肢となります。認知症の方を受け入れている主な施設は以下の通りです。
施設の種類 | 特徴 | 費用(月額目安) |
グループホーム | 認知症の方を対象とした少人数の共同生活施設。家庭的な雰囲気の中で専門的なケアを受けられる[4]。 | 15万円~20万円[5] |
特別養護老人ホーム(特養) | 公的な施設で、費用が比較的安い。要介護3以上が原則で、待機者が多い[6]。 | 10万円~15万円 |
介護付き有料老人ホーム | 24時間体制で手厚い介護サービスを受けられる。施設によって設備やサービスが多様で、費用も幅広い[6]。 | 15万円~30万円以上 |
サービス付き高齢者向け住宅(サ高住) | 自立度の高い方向けの賃貸住宅。安否確認や生活相談サービスが付いている。介護が必要な場合は外部サービスを利用[6]。 | 10万円~25万円 |
施設を選ぶ際は、費用だけでなく、認知症ケアの実績、スタッフの専門性、施設の雰囲気、医療連携体制などを総合的に比較検討することが重要です。
家族の負担を軽減するために
認知症介護は、介護者の心身に大きな負担をかけ、介護離職や「介護うつ」につながることも少なくありません。家族の負担を軽減するためには、一人で抱え込まず、社会資源を積極的に活用することが不可欠です。
1. 公的制度を最大限に活用する
•高額介護サービス費制度: これまでの記事でも解説した通り、自己負担額の上限を超えた分が払い戻されます。
•介護休業給付金: 介護のために仕事を休む際に、収入の67%が支給されます。
•成年後見制度: 認知症により判断能力が低下した方の財産管理や契約行為を、後見人が法的に支援する制度です。
2. 相談窓口を頼る
•地域包括支援センター: 介護に関する最初の相談窓口です。ケアマネジャーや社会福祉士などの専門家が、無料で相談に応じてくれます。
•かかりつけ医・専門医療機関: 認知症の診断や治療、薬の相談など、医療的なサポートを受けられます。
•認知症カフェ(オレンジカフェ): 認知症の方やその家族、地域住民、専門家が気軽に集い、情報交換や交流ができる場です。
•家族会: 同じ悩みを持つ介護者同士で、情報交換や精神的な支え合いができます。
3. 介護サービスを上手に組み合わせる
在宅介護の場合でも、様々なサービスを組み合わせることで、介護者の負担を軽減できます。
•ショートステイ: 短期間、施設に宿泊して介護を受けられるサービス。介護者の休息(レスパイトケア)のために利用できます。
•デイサービス(通所介護): 日帰りで施設に通い、食事や入浴、レクリエーションなどのサービスを受けられます。
•訪問介護: ヘルパーが自宅を訪問し、身体介護や生活援助を行います。
まとめ:一人で抱え込まない介護へ
認知症介護は、終わりが見えにくい長期戦です。経済的な備えはもちろん重要ですが、それ以上に、介護者が一人で抱え込まず、社会とつながり、適切な支援を受けることが大切です。
この連載を通じて、介護とお金に関する様々な知識をお伝えしてきました。介護は、決して特別なことではなく、誰もが当事者になりうる身近な問題です。正しい情報を知り、早期に準備を始めることが、あなた自身と大切な家族を守ることに繋がります。
介護に直面した時、あるいは将来に不安を感じた時、この連載で得た知識が、少しでも皆様のお役に立てれば幸いです。
参考文献
[1] FONESLIFE. 「認知症になった親の介護、費用はどれぐらいかかる? 専門家に」. https://foneslife.com/healthcare-magazine/entry/2024/05/27/103000 [2] みんなの介護. 「全国の認知症の方が入居できる老人ホームの相場」. https://www.minnanokaigo.com/search/ninchisyo/ [3] 朝日生命. 「認知症介護で入居する施設の費用はいくらかかる?それぞれ」. https://www.asahi-life.co.jp/nethoken/howto/ninchisyo/facilities-for-dementia-care.html [4] サニーライフ. 「認知症に強い介護施設の選び方!入居できる施設の種類や」. https://www.sunnylife-group.co.jp/contents/%25E8%25AA%258D%25E7%259F%25A5%25E7%2597%2587%25E3%2581%25AB%25E5%25BC%25B7%25E3%2581%2584%25E4%25BB%258B%25E8%25AD%25B7%25E6%2596%25BD%25E8%25A8%25AD%25E3%2581%25AE%25E9%2581%25B8%25E3%2581%25B3%25E6%2596%25B9%25EF%25BC%2581%25E5%2585%25A5%25E5%25B1%2585%25E3%2581%25A7%25E3%2581%258D%25E3%2582%258B%25E6%2596%25BD%25E8%25A8%25AD%25E3%2581%25AE%25E7%25A8%25AE%25E9%25A1%259E%25E3%2582%2584%25E6%259D%25A1%25E4%25BB%25B6%25E3%2582%2592%25E8%25A7%25A3%25E8%25AA%25AC [5] 大物クリニック. 「認知症対応の介護施設を選ぶ方法と入居にかかる費用相場」. https://www.omono-clinic.jp/dementia-market-price [6] 介護のほんね. 「認知症でも入れる施設選びポイントは?入居のタイミング」. https://kaigo.homes.co.jp/manual/dementia/care/select/
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