はじめに
これまでの記事で、介護費用の全体像から保険の活用、世帯分離、そして介護離職を防ぐ経済的支援策まで、多角的に解説してきました。介護には様々な費用がかかりますが、幸いなことに、その負担を軽減するための公的な助成金・補助金制度が数多く用意されています。
本記事では、介護が必要になった際に活用できる主要な助成金・補助金制度に焦点を当て、その内容、対象者、申請方法などを分かりやすく解説します。これらの制度を知っているか知らないかで、経済的な負担は大きく変わってきます。
1. 高額介護サービス費制度
高額介護サービス費制度は、1ヶ月に支払った介護保険サービスの自己負担額が、所得に応じて定められた上限額を超えた場合に、その超えた分が払い戻される制度です[1]。
•目的: 介護サービス利用者の経済的負担を軽減する。
•上限額: 世帯の所得状況によって、月々の負担上限額が異なります(例:一般的な所得の世帯で月額44,400円など)[2]。
•申請方法: 初めて対象となった際に、市区町村から申請書が送られてくるのが一般的です。一度申請すれば、次回以降は自動的に払い戻されます。
•注意点: 施設サービスの食費や居住費、福祉用具の購入費、住宅改修費などは対象外です。
2. 居宅介護(介護予防)住宅改修費の支給
在宅介護を安全かつ快適に行うために、手すりの設置や段差の解消といった住宅改修(バリアフリーリフォーム)を行う際に利用できる補助金です[3]。
•目的: 要介護者の自立支援と、介護者の負担軽減を図る。
•対象工事: 手すりの取付け、段差の解消、滑りの防止及び移動の円滑化等のための床又は通路面の材料の変更、引き戸等への扉の取替えなど。
•支給限度額: 支給限度基準額は20万円です。そのうち、所得に応じた自己負担割合(1割~3割)を除いた額が支給されます(最大18万円)[4]。
•申請方法: 工事着工前に、ケアマネジャー等と相談の上、市区町村への事前申請が必要です。事後の申請は認められないため、注意が必要です。
3. 特定福祉用具購入費の支給
入浴や排泄など、レンタルになじまない特定の福祉用具を購入した際に、その費用の一部が支給される制度です[5]。
•目的: 要介護者の日常生活の自立を助ける。
•対象品目: 腰掛便座、自動排泄処理装置の交換可能部品、入浴補助用具(入浴用いす、浴槽用手すりなど)、簡易浴槽、移動用リフトのつり具の部分など。
•支給限度額: 年間(4月1日から翌年3月31日まで)10万円が上限です。そのうち、自己負担割合(1割~3割)を除いた額が支給されます(最大9万円)[5]。
•申請方法: 指定された事業者から福祉用具を購入した後、市区町村に申請します。
4. 高額医療・高額介護合算療養費制度
1年間(毎年8月1日から翌年7月31日まで)に支払った医療保険と介護保険の自己負担額を合算し、所得に応じて定められた上限額を超えた場合に、その超えた分が払い戻される制度です[6]。
•目的: 医療と介護の両方を利用する世帯の負担を軽減する。
•注意点: 世帯分離をしている場合、この制度は利用できなくなります。世帯分離を検討する際は、このデメリットも考慮する必要があります。
5. 自治体独自の助成金・サービス
上記の国の制度に加えて、市区町村が独自に設けている助成金やサービスもあります。
•家族介護慰労金: 過去1年間、介護保険サービスを利用せずに在宅で要介護4または5の方を介護した家族に対して、慰労金を支給する制度。
•おむつ代の助成: 在宅で常時おむつを使用している方に対して、おむつの現物支給や購入費の助成を行う制度。
これらの制度の有無や内容は自治体によって異なるため、お住まいの市区町村の高齢者福祉担当窓口や、地域包括支援センターに確認することが重要です。
まとめ
介護費用の負担は決して軽いものではありませんが、今回ご紹介したような公的な助成金・補助金制度を賢く活用することで、その負担を大きく軽減することが可能です。重要なのは、これらの制度の存在を知り、適切なタイミングで申請することです。
介護が必要になった際は、一人で抱え込まず、まずはケアマネジャーや地域包括支援センターの専門家に相談しましょう。利用できる制度を最大限に活用し、経済的な不安を少しでも和らげながら、安心して介護に臨める環境を整えていきましょう。
参考文献
[1] 楽天カード. 「高額介護サービス費とは?制度の内容やいくら戻るのかを」. https://www.rakuten-card.co.jp/minna-money/topic/article_2401_00032/ [2] 厚生労働省. 「高額介護サービス費の負担限度額が見直されます」. https://www.mhlw.go.jp/content/000334526.pdf [3] 株式会社IRS. 「介護で利用できる補助金と、介護費用の負担軽減に役立つ主な」. https://www.irs.jp/media/knowledge/%E4%BB%8B%E8%AD%B7%E3%81%A7%E5%88%A9%E7%94%A8%E3%81%A7%E3%81%8D%E3%82%8B%E8%A3%9C%E5%8A%A9%E9%87%91.html [4] 朝日生命. 「介護リフォームの補助金とは?支給要件や対象工事と申請」. https://anshinkaigo.asahi-life.co.jp/activity/kaigo/column5/11/ [5] 日建リース工業株式会社. 「介護で受けられる補助金・助成金とは? 種類や条件」. https://www.nrg.co.jp/nikkenlease/n-column/subsidy [6] 朝日生命. 「介護で活用できる補助金制度を8つ紹介!」. https://anshinkaigo.asahi-life.co.jp/activity/kaigo/column14/03/
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